通信教育研究の広がりと活性化を感じる1日(石原朗子、総合研究大学院大学)

2013/06/27

日本通信教育学会 -第2回研究交流集会報告-

 2013年3月16日(土)、キャンパスプラザ京都にて第2回研究交流集会が開催された。本会は佛教大学総合研究所プロジェクト研究「遠隔教育と対面教育の連携に関する基礎的研究」および第7回通信教育制度研究会との共催で開催された、当日は4名の研究発表と1名の特別講演に対して、26名が参加し、活発な議論が繰り広げられた。

 1人目の発表者の堀出雅人氏は「中小企業における専門人材育成を支援するICTを活用した学習プログラムの設計」として、「非大学型」高等教育に関して職業能力評価基準という広範囲な視点から、京都レッツラーン大学校の取り組みという実際の活動の視点までを踏まえて発表をされた。質疑においては、レッツラーン大学校の取り組みの現状と課題への議論、どのようなターゲットにどのような実践を行っていくのか、対象は社会人の中で誰なのか、障害者支援などに拡大できないのかなどが議論された。

 2人目の発表者の篠原優子氏は「通信制大学で学ぶということ-卒業生・修了生のアンケート調査からの考察-」として、ご自身の通信教育での学びや交流から得られた「もっと多くの人に通信制大学を知ってほしい」という声の理由を、通信制大学卒業生・修了生、会社員、高校教員へのアンケート調査や聞き取りから解明を試みた。その結果、伝える意味(必要性)はあるが実態が正しく伝えられていないという知見を発表した。これに対して、結果が興味深い、共感を持つという声が寄せられる一方で、量的研究(アンケート)としてはサンプル数が少ないため、サンプル数を増やすか、質的研究の観点でナラティブの手法等を検討してはどうかという指摘があった。また、通信教育についての「正しい認識」「誤った認識」という議論の展開について疑義をさしはさむ意見もあった。

 3人目の発表者の前田宗良氏は「通信制大学院の限界に対応する新たな制度の必要性に関する一考察」として、学校基本調査などの公的資料を基に現状分析を試み、3つの限界を提示した。その第一は専攻分野の偏りであり、その第二は入学定員を満たしていないことであり、その第三はメディアを利用する大学院が少ないことであるという。そして、これらの問題点の解決のために、前田氏は「通信制」と「通学制」の融合を提唱した。この発表に対しては、通信制と通学制は同じ土俵のものか別のものかに関して発表者の見解を聞く質問があり、また通信制の限界とはどういった側面の限界なのか、通学制には限界はないのかという指摘、さらに、もしも通信制と通学制の融合を提唱するならば具体的な方策についてあげないと既存研究の成果を超えられないという指摘があった。

 4人目の発表者の杉本明洋氏は「京都府動画講座配信システム『インターネット放送局生涯学習講座』開発とその成果」として、京都府で生涯学習ために平成18年度から実施されているインターネット配信の現状、工夫、今後の展望について発表された。発表では杉本氏が参画されてから、サイト上にどのような工夫が凝らされたかの報告、その成果としてサイトのアクセス数が前年度の約2.5倍(月7000アクセス)になったことの報告がなされた。これについて、アクセスには偏りがあるのか、ターゲットは具体的に誰か、講師と受講者という立場の固定を循環できるかの問題、講師の確保はどのようになっているかの質問があった。

 最後に、井上義和氏による特別講演「『路傍の石』とその時代-社会関係資本の成り立ちの秘密-」が行われた。講演では『路傍の石』を題材に、「教育システムへの包摂」という発想の外部に出て、社会関係資本を活用して自立した主人公を例に、学校教育では伝達されない知の在り方が提示され、そのような知が時代を経てどのように変化したかが語られた。井上氏は、『路傍の石』は時代によってテキストの活用のされ方が変わってきたが、そのフルテキストには社会関係資本の成り立ちの秘密が描かれていたとし、その社会関係資本は学校教育の教育システムが有意になることで忘れされていくとした。これに対して、社会関係資本の活用のむずかしさは昔も変わらなかったのではといった当時に関する議論から、学校内部にも社会関係資本があるのではといった現在に関する議論までが行われた。

 活発な議論は時間ぎりぎりまで続き、その後の情報交換会には20名近くが参加、そこでも各所で活発な議論の続きが拡げられていた。
(石原朗子 総合研究大学院大学)

「日本通信教育学会報」(通巻40号)より



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日本通信教育学会事務局
担当:小林
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