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「通信教育の研究者ながら、通信教育の門前小僧となる」の巻

2020/06/30

 COVID-19の影響から、大学の授業はある日突然、前期すべてがオンライン化することになった。やり方を誰かが教えてくれるわけでもない。とにかくZoomやCisco Webexの録画教材と格闘し、ミーティングやウェビナーの方法を「自学自習」した。まさに通信生である。
 ところで、少人数の大学院なら、双方向の授業には問題がないが、100人以上の学部生が受講する全学共通科目には苦慮した。ミーティング形式だと、全員の顔がスクリーンに映らないし、操作に慣れない受講生が、生活音や関係ない画像を「共有」してしまうかもしれない。さらに、家庭環境が写り込んでしまったり、本名でアカウント名が表示され、外国にルーツがあることを「強制カミングアウト」させてしまうことにもなりかねない。そこで全学共通科目では、受講者は「視聴のみ」するWebinar形式をとることにした。これなら講師(私)の顔と声、資料だけが配信され、学生の誤操作による「事件」は極力抑えられる。また受講者が、匿名でQ&A機能を使い、質問や意見をライブで共有できる。
 教員歴は四半世紀あれど、初めて自宅の「高座」に上がるのは緊張した。そして発見もある。何百人の教室で、挙手して質問する学生はごくまれだが、チャット等への書き込みや質問は実に多い。「名前はニックネームでもよし、書き込みは全員に向けて」をルールにしたが、実に遠慮がない。私が「〇〇知事に似てる」という書き込みには、苦笑した。
 オンラインアンケートを実施し、結果を共有すると、大きな反響があった。そこで気づいた。そうか、入学したての1年生は、まだ一度も同級生と顔を合わせていない。アンケートの結果に、他の仲間の存在を実感していたのである。
突然始まった「質保証の議論なき」オンライン化には抵抗もあるが、今はともかくも、学生たちの思いに応えるために、オンラインという手法をどう活かすか…現在進行形で学習中である。

(大阪市立大学 阿久澤麻理子)
(「日本通信教育学会報」通巻54号より)