本質を見ることから生まれる先進性

2021/06/30

 3月に本学会の課題研究会で海外の遠隔教育の状況について報告する機会をいただきました。多くの教育機関がコロナ禍の中での実際的な対応に四苦八苦するなか、この課題研究会は、大きな構えとして、この世界史的感染症が近代学校システムに与えうる影響を考える、というテーマを持っていました。印象に残るところです。
北米高等教育における「自学」中心の通信教育および「講義」中心の対面教育から「対話・協働」型のオンライン教育への移行について報告しました。これはコロナ禍に始まったことではありません。30 年程前から本格的に実践と研究が始まり、テクノロジー、指導法及び組織作りに関して分厚い学術的知見と実践知の蓄積を持っています。非同期の対話とリフレクション(省察)の活用が最大の特徴です。
 移行期にあっては大きな抵抗がありました。いまの日本の状況を見れば容易に想像できることです。ではなぜ北米の高等教育はこの抵抗を乗り越え、いち早く改革を果たすことができたのでしょうか。最大の理由は、彼らの中に浸透する「社会にコミットする」という使命感であると感じます。学生の考える力を育て 、成熟した市民を育てる。
海外のオンライン教育専門家と話していると、この信念を強く感じます。
今後国内でこのコロナ禍を機に自律した学習者を育てようとする機運は生まれるのでしょうか。対面の教育機関でお話させていただくと、「日本ではできない」というリアクションを度々いただきます。対話を通して学ぶことに文化の障壁はあるのでしょうか。本課題研究会の質疑では、このリアクションが全くありませんでした。私には非常に新鮮でした。先生方が教育の本質を日頃から考え抜かれているからではないでしょうか。日本通信教育学会はこの国の希望であると感じます。
(東京都立昭和高等学校・主任教諭 宮下 洋)
(「日本通信教育学会報」通巻56号より)