大学通信教育の役割を考える

2019/07/04

 一昨年末に、「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定されたことに端を発して、「高等教育の負担軽減の具体的方策について(高等教育の無償化)」の検討がなされ後、「経済財政運営と改革の基本方針2018」として、閣議決定された。その後、いくつかの経緯を経て、「大学等における修学の支援に関する法律」が制定され、今日に至っている。
 この法律に対処するため各大学では、比較的短期間での要件確認および大学としての機関要件を満たすための各種規程等の改定作業に現在も追われているところだと思う。
 この法律の第1条に目的として、「この法律は、真に支援が必要な低所得者世帯の者に対し、社会で自立し、及び活躍することができる豊かな人間性を備えた創造的な人材を育成するために必要な質の高い教育を実施する大学等における修学の支援を行い、その修学に係る経済的負担を軽減することにより、子どもを安心して生み、育てることができる環境の整備を図り、もって我が国における急速な少子化の進展への対処に寄与することを目的とする」とある。もっとも、支給の対象となるのは低所得者世帯かつ高等学校等を卒業してから2年の間までに大学等に入学を認められた者を対象としているため、若者支援が目的であることがわかる。
 では、若者支援という目的を、これまでの大学通信教育が、どれだけ果たすこと出来たのか、出来なかったのか、を今、思い返している。戦後、大学通信教育が日本の高等教育に果たした役割が大きいことは周知の事実だが、近年に限定した場合、若者支援にどれだけの役割を果たしているのかは疑問である。夜間(二部)教育も衰退し、通信教育課程においても閉鎖する大学も出てきた。今一度、短期大学通信教育を含めた「大学通信教育」の役割を考える時期に来ているのかもしれない。
(神奈川工科大学 寺尾謙)
(「日本通信教育学会報」通巻52巻より)