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日本通信教育学会編集 西本三十二監修著『日本の通信教育 10年の回顧と展望』(1957年,日本通信教育学会)

2021/12/23 通信教育のこの1冊

 本書は、1957年(昭和32年)に日本通信教育学会が編集者として刊行された。出版意図は、まえがきに、戦後に制度化された通信教育も十周年を迎え、日本通信教育創業時代を伝える資料となると共に、将来への飛躍台の役割を果たすことを願う旨が記されている。企画・執筆・編集は1957年4月の日本通信教育学会常務理事会で企画決定、原稿締め切り7月末という非常に短期間でまとめられた。企画執筆編集には20名が名を連ね、高校・大学社会通信教育関係者、文部省関係者など関係機関から選出されていることがわかる。 本書は、三部構成に分かれており、第一部は、「通信教育十年の歩み」として、七章に分け記載されている。各章の詳細は、「第一章 通信教育と新教育」では、教育の機会均等として通信教育の果たすべき役割について詳述され、「通信教育こそ最も民主的な教育方法であり、また通信教育こそ、民主社会の根底を培う最も有力な教育...

白石克己 著『生涯学習と通信教育』(1990年 玉川大学出版部)

2021/06/30 通信教育のこの1冊

 本書の刊行は1990(平成2)年10月である。日本で初となる生涯学習を支援する生涯教育に関する法律「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」が成立し同年7月1日に施行された直後である。当時、カルチャーセンター、大学、社会教育施設の各講座などで成人の生涯学習への熱は高まっていた。各教育機関では受け入れ、一人ひとりの学習需要に応える支援体制作りが課題となる。 そこで著者は「はしがき」で問う。従来の施設・設備に拠った通学方式中心の教育は学業に専念できる若者を対象と設計されている。そのため、通学方式を成人に当てはめると、その学習を制約することなる。結果、時間と資金に余裕のある成人だけが学習に恵まれる、ということになりかねない。そして、「通信教育の器も無限ではないし弱点もある。しかし、通学方式に比べると、学習者が気軽に学べるメリットがある」とする。「生涯教育が今後、開拓すべ...

佐藤卓己・井上義和 編 『ラーニング・アロン 通信教育のメディア学』(2008年,新曜社)

2020/12/25 通信教育のこの1冊

 本学会の会則における目的は、「本会は、開かれた教育を目指して通信教育を研究する会員相互の交流を促進し、学術研究並びに調査活動を通じて、通信教育の普及発展に資することを目的とする。」とある。この普及発展には、通信教育について著された書籍を分析することは有益である。今回は、刊行から12年の時を経た「ラーニング・アロン 通信教育のメディア学」(以下、本書)について評したい。 本書は、ラーニング・アロン(孤独な学習)をテーマに比較的研究者としては若い世代(30代、40代)を中心とした様々な領域の研究者が、明治時代の講義録から通信教育を経てeラーニングに至る遠隔教育の系譜を独自の視点から論じた全11章、360ページから構成されている。ちなみに、筆者が確認する限りでは、出版時までで、編著者を含めた各筆者に通信教育に関する研究業績は見受けられなかった。 その上で、本書の書評として、全章を挙げるこ...

全国定時制通信制高等学校長会 編著 『定時制・通信制課程における多様なニーズに応じた指導方法等の確立・普及のための調査研究』(2019年,ジアース教育新社)

2020/06/30 通信教育のこの1冊

 本書は、全国定時制通信制高等学校長会が文部科学省の委託を受け、2018年度に実施した調査研究事業の報告書である。本報告書の構成は、第Ⅰ部 調査研究に当たって、第Ⅱ部 調査研究への取組について、第Ⅲ部 実践報告、第Ⅳ部 調査研究のまとめ、第Ⅴ部 参考資料となっている。このうち実践報告は、不登校や中退経験生徒への対応、特別支援ニーズへの対応、外国籍や日本語指導を必要とする生徒への対応、経済的困難を抱える生徒への対応、非行・犯罪歴を有する生徒への対応という5つのテーマに分かれている。複数の高校の事例が、その特徴とともに各5~10ページ程度にまとめて掲載されており、今まさに対応に迫られている学校でも参考にできる内容となっている。また、参考資料には、全国の定時制・通信制高校における生徒のニーズ対応に関する記述式アンケートの結果が列挙されており、全国的な現状を知るための貴重な情報源となっている。本報告書...

牟田博光『大学の地域配置と遠隔教育』多賀出版,1994 年.

2019/12/25 通信教育のこの1冊

 約 20 年前,日本で e ラーニングという言葉を聞くようになり始めたころ,「大学教育における IT 活用」が盛んに言われだしていた。当時,私はちょうど修士課程に入学するころであり,修士論文の研究テーマとして,大学での e ラーニングや IT 活用をやりたいと漠然と考えていた。 指導教員の専門は生産管理であり,IT 教育が専門ではなかったが, IT 教育の生産性に興味を示していた。また,大学全体の FD 担当ということもあり,職務として IT 活用による教育改善を試みていた。このような経緯もあり,私の興味と指導教員の意向が合致し, IT 教育の生 産性,特に大学における e ラーニングの費用分析や経済性を中心に修士論文として考察する方針となった。ところが,当時は大学における e ラーニングの文献はある程度あったものの,費用分析のような経済性に着目した論文はほとんどなかった。幅広く資料や論文を探していく中で,「 通信制大学」「遠隔教...

全国高等学校通信制教育研究会編『高等学校通信制教育七十周年記念誌』, 2018年.

2019/06/30 通信教育のこの1冊

 筆者は教育史を専門としている。高等学校通信制の研究を始めて日の浅い研究者ではあるが、その研究を進める中で出会った全国高等学校通信制教育研究会の年史について、最新刊である七十周年記念誌を中心に紹介したい。 同研究会(以下「全通研」という)は、現在118校の通信制高校が加盟する団体であり、1950(昭和25)年に第一回が開催されて以来、毎年度総会・研究協議会を行っている。 全通研では、10年ごとに周年記念誌を刊行している。本誌の前刊は『高等学校通信制教育 六十年のあゆみ』として発刊されているおり、本誌はそれから10年間の出来事を中心に記載されたものになる。この間の10年は通信教育が、情報通信技術分野の恩恵を多く受け、システムとして大きな発展を遂げた時期に当たるとともに、学ぶ者の多様化がさらに進んだのもこの10年ではないだろうか。 学ぶ者の多様化、変化の点では、全通研の設立の1950年頃...

阿部筲人『俳句―四合目からの出発』講談社学術文庫, 1984年.

2018/12/11 通信教育のこの1冊

 「俳句の本」、選書の間違いでは?と思う会員もいよう。たしかに俳句の入門書といえる。しかし私は、通信添削をする者はもちろん、およそ文章を綴る者が参照すべき本だと考え、ここに紹介する。 本書の目的は副題「四合目からの出発」が示唆している。富士登頂を目指しても「展望の利かない裾野を独りぼそぼそ歩くのをやめ、車を飛ばし、三合目を過ぎ、本日、いきなり四合目の木っ端天狗の仲間入り」ができる手引きにある。 俳句にせよ、通信教育のレポートにせよ、不合格スレスレの「三合目」あたりで「ぼそぼそ」歩いてやり過ごすことが多い。頂上が確実に見える「八合目」あたりにたどりつかない。「四合目」から出発したい、その処方箋を具体的に指南しているのが本書である。そのために、初心俳句を約15万句をカードにし分類したという。実際、初心者の類似した句で例証しているから、説得力がある。 一例を挙げよう。「落第の代表作」という...

エリス・パーカー・バトラー(平山雄一訳)『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』国書刊行会, 2012年.

2018/07/16 通信教育のこの1冊

本書は、シャーロック・ホームズに憧れて探偵になった主人公ファイロ・ガッブの、ちょっとまぬけな迷活躍を描いた短編集である。 著者のエリス・パーカー・バトラー(Ellis Parker Butler 1869-1937)は、20世紀前半のアメリカを代表するユーモア作家の一人である。バトラーはニューヨークで銀行家として成功するかたわら、1,700篇以上の短編を書き、生涯で33冊の単行本を出版したという(訳者解説による)。 本書はPhilo Gubb, Correspondence-School Detective(Houghton Mifflin Co., Boston and New York, 1918)の全訳および単行本未収録作品「針をくれ、ワトソン君!」を特別収録として収めたものである。 「探偵になって大儲け。さあ探偵になろう。たった十二回の講座で君もシャーロック・ホームズだ」。室内の壁紙張り職人であったガ...

浜島律子『はい、こちら通信制高校です』新風舎, 2003年.

2017/12/13 通信教育のこの1冊

 本書は、公立通信制高校で国語科の教員として勤務した著者が2001年から2002年の出来事を切り取って、エスノグラフィー風にまとめたものである。入学式から始まり、各学期を追いながら日々の通信制高校の様子が活写されている。今まで中学や全日制高校で勤務した経験はあるが、通信制高校がはじめての著者の通信制高校での「てんやわんや」が描かれている。かなりカルチャーショックを受けたのだろうと、文面からは想像される。 「『リーン、リーン』。また電話。『あんたの職場はいつかけても話中だ』と友だちに言われるが、そう言われても仕方がないほどよく電話がかかる」という冒頭の文は、いかに電話という手段が通信制高校のなかで頻繁に使用されていたかが分かる。本の題名も「はい、こちら通信制高校です」であるし、表紙も電話の絵である。著者はひっきりなしにかかってくる電話に辟易しているが、しかし、電話のなかでの教育課題には...

朝日 稔『私の手帖―その遥かなる道』朝日稔叙勲記念事業実行委員会,1983年.

2017/07/20 通信教育のこの1冊

 本書は長年、高校通信教育に携わった朝日稔氏の自伝である。朝日氏は戦後高校通信教育が始まった昭和23年から自身の定年までを通信制高校にて勤められ、それ以後も多様な形で高校通信教育に携わった、高校通信教育とともに生きた「通信制の神さま」とも呼ばれる方である。 本書は『私の手帖』とあるように、昭和50年代までの朝日氏の日々生きてこられた中での出来事や、想いが綿密に記された総頁数400頁を超える大作である。特に、戦後を記した第二部は高校通信教育とともに生きてこられただけあって、本書以外では知ることが難しい内容にも言及されている。 ここでは印象の残ったエピソードのうち3つに焦点を当てて簡単に紹介したい。1.IFELでのヤング氏の講演:リポート指導とは 初期のエピソードの1つとしては、IFELの際のヤング氏の講演内容に言及があり、「いつでも、どこでも、誰れでも」を説いたことや、「リポート指導に...

岩手大学学芸学部通信教育部編『岩手大学の通信教育』岩手大学学芸学部通信教育部,1959年.

2017/07/20 通信教育のこの1冊

 「大学通信教育」とは、1950(昭和25)年に正規の課程として開始されたものである。現在では「大学通信教育=私立大学」という認識が、通信教育関係者の中でも、もはや当たり前のものとなっている。 しかし戦後教育改革期には、学校教育法に基づく大学通信教育とは異なる、国立大学が実施していたもう一つの「大学通信教育」が存在していたという事実を、我々関係者は忘れてはならない。その「幻の通信教育」とも言うべき存在こそ「教育職員免許法認定通信教育」、いわゆる国立大学通信教育と呼ばれるものである。その沿革は、『岩手大学の通信教育』によると、次のように記されている。 「昭和二十二年度から六・三・三の新しい学制が実施されることになり、駐留軍総司令部民間情報教育局は、その精神を徹底させ、速やかに教育を新しい方向に切りかえるための方法のひとつとして、文部省の相談をうけ教員再教育の通信教育を行うことを承認した。...

花柳 幻舟『小学校中退、大学卒業-新・学問のすすめ』明石書店,2004年.

2017/07/20 通信教育のこの1冊

 花柳幻舟が何者かご存じでない方は、まずはWikipediaで検索されることをお勧めする。本書は、舞踊家、女優、作家にして、その所業で世間を騒がせることの多かった希代の女丈夫による放送大学卒業報告である。 西日本各地を回る旅役者の子として生まれた幻舟は、物心ついたときには子役として舞台に立っていた。旅先で父親が手続きをとり小学校に行かせるものの、差別やいじめをくり返し受け、学校は地獄のような恐怖の場、自分にとっての「敵」だと思うようになり、やがて行かなくなる。「小学校中退」である。後年、自分にとってのキーワードのひとつが「学校」だということを突きとめ、そこで受けた大きな心の傷(トラウマ)に正面から向き合ってみよう、再びあの恐ろしい「学校」へ行ってみようという大挑戦を企てることになる。 夜間中学や大検などについて調べ、たどり着いたのが放送大学だった。一般教養科目16単位を取れば大学入学...

藤岡 英雄『学びのメディアとしての放送-放送利用個人学習の研究』学文社,2005年.

2017/07/20 通信教育のこの1冊

 インターネットが今日ほど普及していなかった時代、毎年4月になると、「今年こそは」とNHKラジオ・テレビ講座のテキストを揃える…そんな経験を誰もがもつのではなかろうか。たとえ数か月の継続だったとしても、そう思える状況は何か前向きな気持ちの現れのように感じられる。もちろん視聴を続けて語学や料理などの技能を習得した人も多いだろう。しかし、これまで私たちの日常に定着してきた放送個人学習に関して体系的に行われた研究は意外にも少ない。 本書は「おとなの学び」について、放送利用個人学習を題材に考察された書籍である。著者はNHK教育テレビが開始された1959(昭和34)年から教育番組制作者として現場に携わり、その後NHK放送文化研究所で番組開発研究を重ねた。退職後には大学教員として大学公開講座を企画・運営する大学開放事業にもかかわってきた。そのためか、研究者でありながら常に現場主義、...

杉田玄白・建部清庵『和蘭医事問答』岩波書店,1976年.

2015/07/01 通信教育のこの1冊

 私人の手紙の交流は通常、公開されない。しかし杉田玄白と建部清庵とのこの往復書簡、4通は私蔵されなかった。当初からこの書簡は玄白の入門者のテキストとされていた。しかも「和蘭医事問答」の名で公刊された。メールによる多彩な交流や転送が容易になった今、この歴史的な質疑応答は再評価できる。 差出人・建部清庵が奥州一関から書簡(質問書)を認めたのは、1770(明和7年)閏6月のことである。杉田玄白による江戸からの回答の日付は1773(安永2年)正月である。この間、2年半程度も経っている。遅くなったのは飛脚の往来が困難であったというよりも、宛名も定まらない質問書に答えられる人物が見つからなかったからである。 建部清庵(1712~1782)は本草学者として飢餓に備え食用となる野菜や果樹を奨励していたが、医師でもあり、かねがねオランダ流医術に疑問があった。その疑問が解けないと、死んでも死にきれない熱...

村井実『教育の再興』講談社, 1975年.

2015/07/01 通信教育のこの1冊

 村井先生との最初の出会いがこの本でした。2012年のことです。それから様々な著書を読みましたが通信教育、特に大学通信教育について極めて明瞭に問題点を指摘し、また私の長年の疑問にも答えてくれているのが『通信学習による大学改革』(ギュンター・ドーメン著,鈴木謙三訳,村井実監訳,日本放送出版協会,1972)の「監訳者はしがき」でしたので『教育の再興』の前にこれから紹介します。 村井先生が考える大学通信教育の問題点を一口で言えば「大学問題の埒外にある」ということです。少し引用します。  「(略)日本では、大学通信教育は、一九四八年以来の長い歴史をもっている。だが、その間、その理念についても、組織制度  についても、潜在するさまざまの問題点についても、ほとんど本格的な研究は行われた形跡がない(略)政府はもともと、百年  来その支配下においてきた大学について、その根本的な変革を欲するわけはなか...

秋田大学鉱山学部編『通信教育十五年』秋田大学鉱山学部通信教育室,1962年.

2014/10/21 通信教育のこの1冊

 資格を与えることに目的をおく教育は時代遅れ。通信教育はノン・クレジット・コースだけにすべき。日本の教育界のがんである学歴、レッテル主義と学閥の弊風を一掃し、実力主義を打ちたてよ。こうした主張が強かったものの、クレジットの現実的な必要を説く教育現場の声に押され、ノン・クレジットの栄冠は社会通信教育の頭上にのみ輝いた――。  「ノン・クレジットの栄冠」とは逆説的な言い回しに聞こえるが、そう回想したのは、文部省社会教育視学官として戦後の通信教育制度創設に関わった二宮徳馬である(『文部省認定社会通信教育 20年の歩みと将来』昭和43年)。秋田大学鉱山学部の通信教育講座も、その「栄冠」を手にした社会通信教育講座の一つである。秋田大学鉱山学部編『通信教育十五年』によれば、昭和23年5月23日に開催された同講座の開講式に、その二宮が企画課長の福原義人とともにはるばる参列している。それだけではない。当...

手島純『これが通信制高校だ』北斗出版, 2002年.

2014/01/20 通信教育のこの1冊

 著者の手島氏は、高校教諭として、15年間公立の通信制高校に勤務した経験を持ち、現在も通信制高校に関する研究や発言を続けられている。 本書は「これが通信制高校だ」というタイトルだが、内容は日本の通信制高校にとどまらず、ドイツやアメリカにおける通信教育や、遠隔教育の現状にまで及んでいる。また、日本の通信制高校についても、設置経緯から現在の多様な高校の実態に至るまで、文献調査や著者の教員としての経験、高校への訪問調査によって詳細に述べられている。そして最後には、教育の在り方そのものに対する提言がなされている。現在、通信制高校に関連する書籍の多くは学校案内で、通信制高校に関しての研究はまだまだ少ない。そのため、特色ある学校の様子を知る事はできても、ベースとなる制度的背景や、通信制高校の生徒の多様化による問題が指摘されることは少ない。こうした中で、本書は通信制高校の在り方、学校教育の在り方に...

宮子あずさ『大学通信教育は卒業できる』メディカ出版, 2004年.

2013/09/16 通信教育のこの1冊

 宮子あずささんは、看護専門学校を卒業後、大学通信教育で学士、通信制大学院で修士の学位を取得、働きながらの学びで博士の学位までを取得された方である。その平成5年から現在に及ぶ学びは、多くは通信教育での学びである。本書は、そのうち最初の学士課程である産能大学卒業を過ぎた頃から明星大学通信制大学院での学びの過程をつづった体験記兼Tips集である。 宮子さんははじめにこう綴る。「忙しくても続けられるべつ腹の楽しみ」、それが通信教育である、と。さらに、「大学通信教育は卒業できる!」、ただ、そのためには「コツ」があり、「裏情報」があるという。読み進めると、そこにはいくつもの有用な情報や、ときには通信教育で学ぶ上での考え方が綴られている。その中身は入学に際してのノリの大切さ、入学する大学を決める際の視点としての編入学の有無、単位取得方法、試験システム、スクーリングから、さらには、モチベーションの...

大原富枝『婉という女』」講談社, 1960年.

2013/08/19 通信教育のこの1冊

 主人公・野中婉(1660~1725)が初めて師・谷秦山と出会ったときの思いを、大原富枝はこう書く。  「おお、お婉どのか―」  わたくしはあっと思った。(中略)低い声で呼ばれた自分の名が矢のようにわたくしの心に、体に刺さった。  女には生涯にただ一度呼んで欲しい自分の名があるものではあるまいか。 時に婉は44歳。秦山から儒学や詩歌などに関する書簡による指導を受けてから約5年間。秦山からの兄宛書簡を介して師を知ってからすでに約17年間。4歳の時、土佐・宿毛(すくも)に幽閉されているので、もはや40年。酷い時間の積み重ねがあった。書簡のうえでしか知らない師の、生身の姿との初対面。その感激は筆舌に尽くしがたいだろう。 野中婉は土佐南学の流れを汲む朱子学者であるとともに土佐高知藩の家老・野中兼山(1663~1718)の四女である。兼山は南学による庶士の教化にあたり藩政の指導者として辣腕をふ...

三好京三『キャンパスの雨』文藝春秋, 1979年.

2013/07/16 通信教育のこの1冊

 『子育てごっこ』で直木賞を受賞した三好京三が、自身の体験をもとに書いた中年大学生の通信教育奮戦記である。三好が慶應義塾大学文学部国文学科(通信教育課程)に入学したのは昭和40年4月、卒業は46年3月なので、卒業までに6年かかっている。一方、小説の主人公の信吉は4年で卒業している。その4年、4回にわたるスクーリングでの出来事を、汗と涙、それに多少のロマンスを交えて、遅れてやってきた輝ける青春として生き生きと描いている。  信吉は、村の小学校の分校で妻と二人で教師をしている。子供はいない。学歴は、旧制中学4年から新制高校2年に移行して卒業している。教育委員会からは「職務専念義務特別免除」の休暇をもらい、PTA会長や婦人会長からは「先生ァ、子どもの模範だ」と持ち上げられ、夫婦二人分の給料を注ぎこんで参加しているスクーリングだから、脇見などしている余裕はないはずだが、そこはそれ、女性が多い文...

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2021/12/23 通信教育のこの1冊 日本通信教育学会編集 西本三十二監修著『日本の通信教育 10年の回顧と展望』(1957年,日本通信教育学会)
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2017/12/13 通信教育のこの1冊 浜島律子『はい、こちら通信制高校です』新風舎, 2003年.
2017/07/20 通信教育のこの1冊 朝日 稔『私の手帖―その遥かなる道』朝日稔叙勲記念事業実行委員会,1983年.
2017/07/20 通信教育のこの1冊 岩手大学学芸学部通信教育部編『岩手大学の通信教育』岩手大学学芸学部通信教育部,1959年.
2017/07/20 通信教育のこの1冊 花柳 幻舟『小学校中退、大学卒業-新・学問のすすめ』明石書店,2004年.
2017/07/20 通信教育のこの1冊 藤岡 英雄『学びのメディアとしての放送-放送利用個人学習の研究』学文社,2005年.
2015/07/01 通信教育のこの1冊 杉田玄白・建部清庵『和蘭医事問答』岩波書店,1976年.
2015/07/01 通信教育のこの1冊 村井実『教育の再興』講談社, 1975年.
2014/10/21 通信教育のこの1冊 秋田大学鉱山学部編『通信教育十五年』秋田大学鉱山学部通信教育室,1962年.
2014/01/20 通信教育のこの1冊 手島純『これが通信制高校だ』北斗出版, 2002年.
2013/09/16 通信教育のこの1冊 宮子あずさ『大学通信教育は卒業できる』メディカ出版, 2004年.
2013/08/19 通信教育のこの1冊 大原富枝『婉という女』」講談社, 1960年.
2013/07/16 通信教育のこの1冊 三好京三『キャンパスの雨』文藝春秋, 1979年.