宮子あずさ『大学通信教育は卒業できる』メディカ出版, 2004年.

2013/09/16

 宮子あずささんは、看護専門学校を卒業後、大学通信教育で学士、通信制大学院で修士の学位を取得、働きながらの学びで博士の学位までを取得された方である。その平成5年から現在に及ぶ学びは、多くは通信教育での学びである。本書は、そのうち最初の学士課程である産能大学卒業を過ぎた頃から明星大学通信制大学院での学びの過程をつづった体験記兼Tips集である。

 宮子さんははじめにこう綴る。「忙しくても続けられるべつ腹の楽しみ」、それが通信教育である、と。さらに、「大学通信教育は卒業できる!」、ただ、そのためには「コツ」があり、「裏情報」があるという。読み進めると、そこにはいくつもの有用な情報や、ときには通信教育で学ぶ上での考え方が綴られている。その中身は入学に際してのノリの大切さ、入学する大学を決める際の視点としての編入学の有無、単位取得方法、試験システム、スクーリングから、さらには、モチベーションの高め方、パソコンの利用の勧め、レポートへの心構え、通信制大学院での修士論文作成まで多岐に及ぶ。

 その中で、ここでは2つのエピソードを紹介したい。

 1つはレポートである。レポート執筆に関して、著者の宮子さんは2つのことを述べている。その一つは、「レポートでよい成績を取ろうと力んで提出が滞るよりは、科目修得試験に力を入れるのも手」であること、もう一つは、「レポートを書く行為そのものが論文の訓練になると思えば、やる気も出る」という指摘である。いろいろな意見がある中で、私自身が通信教育で学んだ際に「論文の訓練」という大きな目標を持てていたか。宮子さんと同様、通信制大学院修士課程に学び、さらに博士課程に学ぶ自分には、修士課程のレポート作成時にここまでの思慮深さがあったか、ちょっと考えながら読んでしまったが、この部分からは、まず書いてみること、書く理由、取り組む理由を自分なりに持っておくことという独学の学びに必要な姿勢の持ち方を感じることができる。

 もう1つがスクーリングである。スクーリングについて、宮子さんは、「原則遅刻、早退、欠席が認められない」ことや、仲間を見つけてリフレッシュできる「心理的効果」があることを述べている。これは大学通信教育や通信制大学院で学ぶ人にとってはすんなり納得できる内容だが、これから学ぶ人、あるいは通学制で学んだ人にとって、遅刻・早退・欠席が認められない事実はどう映るのだろう。

 スクーリングに関して、特にその中で実施されるグループワークについて、宮子さんは、次のようなことも言っている。

-大学通信教育という、独学のよさが、グループワークでは活きない気さえします-と。

 こうした通信教育観は、多くの大学通信教育を体験した宮子さんならではものである。

 本書には、そのほかにも学んだ人だからこそ気付くいろいろな苦労やコツが書かれており、学びが滞った人の背中を押してくれる書であり、学びを始めようとしている人の羅針盤ともなりうる書ではないだろうか。

 臨床で働きながら、著述に励み、そこに研究の視点も織り込んでいく。そんな仕事と暮らしを目指している宮子さん、そして経験を生かしたHPを立ち上げ、仲間づくりの末、今や旦那さんも通信教育で学ばれるようになったという宮子さん。

 そんな彼女は、最近、日本通信教育学会の会員になられ、次回の研究協議会のシンポジウムにもご登壇いただく予定である。研究協議会でのご活躍にも期待したい。

(石原朗子:総合研究大学院大学)

「日本通信教育学会報」(通巻40号)より